概要
現代美術にはSF的な想像力が必要だ。生命が眼を獲得したことがカンブリア爆発を引き起こしたと主張する人もいれば(アンドリュー・パーカー『眼の誕生』)、われわれの視覚(ビジョン)はテクノロジーとガジェットによって容赦なく抽象化されていくと論じる人もいる(ジョナサン・クレーリー『観察者の系譜』)。視覚とメディアについての考察こそが美術の根幹だということもあって、われわれのイマジネーションはどうしても太古の生命や未来のガジェットに及んでしまう。
荒渡巌(アラワタリ イワオ)とHouxo Que(ホウコォ キュウ)の2人展「ディスプレイの光」は、美術に対する根源的なアプローチを上記のようなSF的感性へと昇華した展覧会である。
古びた液晶ディスプレイとケーブル類が絡み合った巨大な塊が白色光を放出して回転する荒渡巌の《月の下で眠りたい》は、90年代のサイバーパンクを連想させる立体作品である。対してHouxo Queの《Medium of painting》 は1/60秒ごとにランダムに色を変化させつつ点滅し続けるディスプレイと暗い展示空間のコントラストによって、表示デバイスの量感を消し去ってしまう。前者はモーターで駆動するハードウェアの回転運動によって、後者は天井に設置された無数のチューブが放出する水の効果によって、自らが放つ光を複雑に屈折させる。やがて水というメディウムを通過した両者の光は、複雑な画肌と立体的な筆触を備えた絵画そのものになる。さらに、われわれの身体は、この水という物質を媒介として、電磁波や象徴的な概念ではない物としての光と触れ合うことになる。この空間では、イメージへの没入と光との接触が同時に起きるのだ。
空間芸術とは、われわれ人間の身体に備わった機能を利用してなんらかのイメージを知覚させる人工的なシステムのことだ。では、眼とはなにか。メディウムとはなにか。そして、イメージとはなにか。その探求にはSF的な想像力が必要だ。
(文・松下哲也、企画・伊藤啓太)
作家略歴
荒渡 巌(あらわたり いわお)
1986年東京育ち。2017年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。社会の消費構造からこぼれ落ちる現象や物語に傾注して制作を行っている。サロン・ド・プランタン賞受賞。主な展示に「転生 / Transmigration 2015」Alang Alang House(ウブド)、「カオス*ラウンジpresents『怒りの日』」(いわき)などがある。若手芸術家による実験販売活動「カタルシスの岸辺」の店長でもある。自給志向が強く、2018年に公益財団法人自然農法国際研究開発センター本科研修生を修了した
Houxo Que(ホウコォ キュウ)
10代でグラフィティと出会い、 ストリートで壁画中心の制作活動を始める。 以後現在まで蛍光塗料を用いたペインティング作品とブラック ・ ライトを使用したインスタレーションで知られる。作品の制作過程をショーとして見せるライブペイントも数多く実施。2012年頃よりディスプレイに直接ペイントをする制作を行いはじめ、 2014年BCTION、 2015年 Gallery OUT of PLACEにて16,777,216viewシリーズを発表した後様々な企画展示およびアートフェアなどで活躍、 現代アートのシーンにおいて注目を集めている。Gallery OUT of PLACE 所属
作品配置図
荒渡巌
A1《月の下で眠りたい》 2019年
Houxo Que
Q1《Medium of painting》 2019年
360°画像
Post from RICOH THETA. - Spherical Image - RICOH THETA
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