横浜の旧外国人居留地、関内にある
美術展示・情報アーカイブスペース

齋藤はぢめ|トモトシ カモフラージュゼロ

information

イベント名 齋藤はぢめ|トモトシ カモフラージュゼロ
会場 齋藤はぢめ|トモトシ カモフラージュゼロ (Vimeo)
※レンタル手続きは4/26(日)23:59をもって終了しました。
 会期内でのレンタル分に限り、レンタル開始から72時間のあいだ視聴できます
開催日程 2020/4/24(金) - 4/26(日)
出品作家 齋藤はぢめ, トモトシ

「齋藤はぢめ|トモトシ カモフラージュゼロ」オンラインイベントを実施します!
日時: 4/25(土)20:00-22:00
チケット料金: 1,000円
配信: LOFT PROJECT

概要

関内文庫は、「齋藤はぢめ|トモトシ カモフラージュゼロ」展をオンラインで開催する。具体的には Vimeo での映像レンタルと LOFT PROJECT で配信されるオンラインイベントが本展の中核となる。

齋藤はぢめもトモトシも、いわゆる「ソーシャリー・エンゲージド・アート」の作家ではない。作品や展示を通じて社会問題を告発したり、世の中の悪を直接糾弾したりはしない。彼(女)らは一見滑稽で皮肉に満ちた映像を通じて社会や人間のシステムの不備を突く。たとえば齋藤の新作《配る人》は、ある職業を連想させる服さえ着ておけば、どんなにあやしい行為や話をしても人に簡単に信用されてしまうという恐ろしさを皮肉たっぷりに映像化している。トモトシの新作《イフアイムーブミー》は、個々人が善良な市民であろうとしてルールを厳格に守ろうとすればするほど、市民生活にとって好ましい秩序が破綻に近づいていく様子をユーモラスに描いている。この展示は、私たちが普段見過ごしている社会の仕組みと運用のされ方を確認し、考察する契機となるだろう。

「カモフラージュゼロ」という展示タイトルは安物のアルコール飲料「ストロングゼロ」から発想された。アルコール度数 9% の「ストロング」な飲み応えでありながら糖類、プリン体「ゼロ」だから健康にいいのだという矛盾に満ちたメッセージを持つこの商品は、アルコール依存症の入り口になるとして近年問題視されている。ではなぜこのような危険な飲料が堂々と売られるようになったのだろう。その理由は単純で、ほんらい大衆的な酒であるはずのビールの税率が日本では法外に高く、大衆が大衆酒を飲めないという馬鹿げた事態が生じたからである。しかしメーカーは大衆的な値段の酒を売りたい。そこで税金があまり取られない製造法の酒を企画した。酒税さえ真っ当であれば開発する必要がなかった、本当は誰にも望まれていない商品——それを売るために「安いアルコールで手っ取り早く酔いたいが心身は健康でありたい」という酒飲みの矛盾した心理を突く巧みな商品名が考案されたのだ

新型コロナウイルスの蔓延によって「自粛」という言葉が濫用されていく経緯は、ストロング系のチューハイが台頭した過程に似ている。まずは「自粛」を「要請」するというおかしな言葉の用法を社会に定着させればよい。それさえ達成できれば、あとは不安に駆られた市民が自粛ムードなるものを勝手に醸成し、もともと存在しないニーズを自発的に作り出し、その効能やありがたさの中毒になってくれるのだ。ストロング系の安酒が酒税の不備で生まれたように、疫病の蔓延や経済への不安も政治や行政の失策が招いた。しかし、個々人がよき市民たらんとして経済活動や娯楽を「自粛」するという体にしておけば、失政や失策は隠蔽(カモフラージュ)しておりません、ただ、市民の皆さんの命と生活を守るのはあくまでも個々の心がけ次第ですよねという論理のすり替えが可能である。ことほどさように、自粛という言葉が善良な人間でありたいと願う私たちの意識に働きかけ、「自粛ムード」というありもしない行動規範のニーズを生んだ。すると、多くの人々が、そのありもしないルールを徹底することに酔い、ストロング系の安酒に耽溺するのと似たような中毒状態におちいった。このようなアル中状態を生む名状しがたい何かのことを、私たちは「カモフラージュゼロ」と名付けた。

さて、本展をオンラインで開催することに決めるまでには長い道のりがあった。神奈川県からギャラリーの営業を「自粛」せよと「要請」されている状況下では通常の展示を行えない。しかし、作家も関内文庫も、ギャラリーで展示できないから作品をオンラインで見せますというような消極的な企画にするつもりは毛頭なく、両者の協議のもとさまざまな展開が模索されたのである。ここで強調されたのはエンターテインメント作品としての映像の流通の仕組みとアートとしての映像の取引の慣習は根本的に異なるということだ。

美術館やギャラリーで展示される映像作品は、メディアや映像データにエディション番号を振り、その映像が真作であることを示す証明書と共にコレクターの手に渡ることが一般的である。これは版画などの複製芸術と同様の仕組みである。このような手法を採って流通量をコントロールしているからこそ「美術」という制度に合致する作品と見なされ、収集され、展示されるのである。だから、アートとしての映像作品はレンタルビデオのビジネスモデルとはほんらい相容れない。それがわかっていて、なぜレンタルでの作品展示を選んだのか? その意図についてはオンラインイベントで明らかにされるはずである。

(文・松下哲也、企画・伊藤啓太)

作家略歴

齋藤はぢめ(さいとう はぢめ)

1992年生まれ。2014年東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業、2015年美学校アートのレシピ修了。コスチュームを用いて他者との関わりを扱った映像や写真などを制作している。主な個展に「Non Player」(ナオナカムラ、2016年)。主なグループ展に「遊びと表現の往復書簡」(いりや画廊、2019年)、「二人だけの国」ギグメンタ「明暗元年」(あをば荘、2018年)、「MOTアニュアル2016 キセイノセイキ」(東京都現代美術館、2016年)。HP: http://hajimesaito.jp/

トモトシ

1983年山口県生まれ、東京都在住。豊橋技術科学大学を卒業後10年にわたって建築設計・都市計画に携わる。2014年より映像インスタレーション作品を発表。都市空間や公共ルールに歪みを生むアクションを行うことで制作している。主な展覧会に「有酸素ナンパ」(埼玉県立近代美術館、2019年)、「あいちトリエンナーレ2019」(豊田市街なか会場、2019年) 、「tttv」(中央本線画廊、2018年)、がある。HP: http://tomotosi.com/

補足

協力

揺動、LOFT PROJECT

出展作品

齋藤はぢめ

S1配る人》 2020年
S2ARIGATO MASK》 2020年
S3Elevator Girl》 2013年

トモトシ

T1イフアイムーブミー》 2020年
T2シックス・エアセックス》 2020年
T3バリエーションルート》 2020年

動画